トップページ > 戯言 > 新年は悪夢で始まった | ||||
新年は悪夢で始まった
2009 - 01/02 [Fri] - 21:43
振り返ると、富士山が美しいたたずまいを見せていた。
富士山を見つめると、父の病が奇跡的に回復すればどんなにいいか。
だが実際は、そんな可能性は万に一つもない。
病院に到着したら、父は口をゆすいでいた。
悪魔の指示でそうしているらしい。
「口の中がかなり汚れているので、きれいにするように言いました」
私の顔を見るなり、悪魔はそういった。
「おなかがすいてしょうがない。何か食べたい」と父はこぼす。
だが父は、すでに腸閉塞を起こしているし、がんも腹膜に転移しているから、もうこれ以上の回復は望めない。
当人だけが「治る」と信じている。
つらい。
部屋から出て行くとき、悪魔は我々に背を向け、こうつぶやいた。
「ああよかった。息子さんが来てくれて」
ふざけんな!
父は病室で、箱根駅伝を見ていたらしい。
どこが一位になったの?と聞いたら「黒人がいるチーム」という返事。
箱根駅伝出場校で、黒人がいるのは日大と山梨学院。
だけど「日大?山梨学院?たすきの色はなんだった?」と突っ込んでも、父は答えられない。
しょうがないなあ。
父は、自分が治ると思い込んでいる。
以前からセーターと電気かみそりをほしがり、私に買ってきてくれとせがむ。
あちこち見てやったが、セーターは父が気に入るようなものは売っていないし、電気かみそりは、父がいうところでは扱っていなかった。
「電気かみそりは、大型家電販売店じゃないと売っていないよ」
私がこういうと、父はとたんに不機嫌になった。
「ふざけてんなあ」
明日、大型家電販売店を見てやると約束した。
母が体調を崩しているから、今日は病院にこられないんだよというと
「母さんによろしくな」と答えた父。
父さん、ごめんなさい。
自分が情けないばかりに、こんなことになりました。
夕食後、今年初めて母とお茶の時間を持つ。
父は甘いものが大好きだった。
もう一家揃って、お茶の時間をすごすことはない。
「願い下げ、願い下げ」といって、父が食器を洗ってくれることもない。
「平凡」という名の幸せな時間。
人生これ平凡が一番幸せということを、今しみじみと感じている。
一富士、二鷹、三茄子。
古来、初夢に上記のものが出てくれば「今年は縁起がいい」といわれている。
だが私の見た初夢というのは…
暗い道端でに転がっている、惨たらしい死体。
姿形から「人間」とかろうじて判別できるものの、身元まではわからない。
しょっぱなから、見たくないものを見てしまった。
今年も、ろくな年になりそうにない。
振り返ると、富士山が美しいたたずまいを見せていた。
富士山を見つめると、父の病が奇跡的に回復すればどんなにいいか。
だが実際は、そんな可能性は万に一つもない。
病院に到着したら、父は口をゆすいでいた。
悪魔の指示でそうしているらしい。
「口の中がかなり汚れているので、きれいにするように言いました」
私の顔を見るなり、悪魔はそういった。
「おなかがすいてしょうがない。何か食べたい」と父はこぼす。
だが父は、すでに腸閉塞を起こしているし、がんも腹膜に転移しているから、もうこれ以上の回復は望めない。
当人だけが「治る」と信じている。
つらい。
部屋から出て行くとき、悪魔は我々に背を向け、こうつぶやいた。
「ああよかった。息子さんが来てくれて」
ふざけんな!
父は病室で、箱根駅伝を見ていたらしい。
どこが一位になったの?と聞いたら「黒人がいるチーム」という返事。
箱根駅伝出場校で、黒人がいるのは日大と山梨学院。
だけど「日大?山梨学院?たすきの色はなんだった?」と突っ込んでも、父は答えられない。
しょうがないなあ。
父は、自分が治ると思い込んでいる。
以前からセーターと電気かみそりをほしがり、私に買ってきてくれとせがむ。
あちこち見てやったが、セーターは父が気に入るようなものは売っていないし、電気かみそりは、父がいうところでは扱っていなかった。
「電気かみそりは、大型家電販売店じゃないと売っていないよ」
私がこういうと、父はとたんに不機嫌になった。
「ふざけてんなあ」
明日、大型家電販売店を見てやると約束した。
母が体調を崩しているから、今日は病院にこられないんだよというと
「母さんによろしくな」と答えた父。
父さん、ごめんなさい。
自分が情けないばかりに、こんなことになりました。
夕食後、今年初めて母とお茶の時間を持つ。
父は甘いものが大好きだった。
もう一家揃って、お茶の時間をすごすことはない。
「願い下げ、願い下げ」といって、父が食器を洗ってくれることもない。
「平凡」という名の幸せな時間。
人生これ平凡が一番幸せということを、今しみじみと感じている。